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他国の税金頼りに民族教育 北朝鮮の“勘違い”
2010 / 12 / 26 ( Sun )
【安藤慶太が斬る】

 ようやく大阪府に続いて朝鮮学校への補助金を本格的に見直す動きが出てきた。東京都が学校法人「東京朝鮮学園」が経営する都内の朝鮮学校10校に対し支出してきた年計約2400万円の補助金を「適用除外」として当面中止する方針を固めたというのである。

 今年9月、拉致被害者家族会が朝鮮学校への助成見直しを都に要請した。石原慎太郎知事は「反日教育を行い、かつては拉致事件で朝鮮総連が動いた状況証拠もある。手当を出すことは外国では考えられない」としていた。

 適用から外した理由を東京都は(1)北朝鮮による砲撃で政府が朝鮮学校の高校授業料無償化の運用手続きを停止するなど今後が不透明(2)補助金支出に関する議論が都議会でも続いている−とする。

 ■「見直し」ではなく「働きかけ」

 朝鮮学校への補助金支出の見直しが全国の自治体に広がっている。神奈川県のように、学校に知事が出向き「2013年の教科書改訂時に教科書編纂(へんさん)委員会に(問題となっている教科書記述について)見直しを働きかける」とした文書回答を得た後、補助金支出に舵を切った例もある。

 ちなみに神奈川県の判断はどうなのだろうか。朝鮮学校が約束したのは「見直し」ではなく「働きかけ」に過ぎない。朝鮮学校の教科書内容の変更には北朝鮮の許諾が必要で、朝鮮学校の判断で見直せるわけではない。

 高校無償化の議論のさいも、北朝鮮本国は、教育内容について条件が課せられるのを拒むよう日本の朝鮮総連関係者に伝えてきた。無条件での支給を求めているのだ。それが適わなければ、無償化の申請そのものを取りやめるよう指示を出しているのである。

 この指示を受けて総連内の議論は紛糾した。「一歩も引くな」とする北朝鮮本国に逆らうわけにはいかない。といって現実問題として学校経営や保護者から見れば、無償化の適用から外れる選択は金銭的に痛いからだ。

 国内の在日子弟はこぞって日本の高校に通うようになるに違いない。日本の高校は入学試験さえパスすれば、日本人でも北朝鮮の生徒でも、等しく教育を受ける機会を保障している。就学支援金も支給されているのだ。

 ■教科書はきっと変わらない

 支援金はのどから手が出るほど欲しい。だが、本国にも楯突けない。そこで持ち出された論理が、2013年に教科書は改訂されますよ、という説明なのである。そうすれば北朝鮮には一歩も引いていないという理屈が成り立つ。一方で日本側からの教科書批判にも何らかの対応をしたという理屈も成り立つ、というわけである。

 2013年に教科書は変わります。そのとき、私たちは責任を持って記述の見直しを「働きかけます」というのだが、教科書を決裁する北朝鮮が、そんな条件をのむはずがないし、学校関係者はすでに先刻承知で胸に秘めているのだろう。だから文書を注意深く読むと「見直し」ではなく「見直しを働きかける」と正確に書かれているのだと思う。

 2013年に松沢知事はだまされたことに気づく可能性が高いと思う。もっともその松沢氏が問題の2013年に神奈川県知事を続けているかどうかは全くの未知の話である。

 ■問われる松沢知事の見識

 肉親の救出活動を「反朝鮮人騒動」呼ばわりするのは、もはや教育機関として資質が問われる話である。拉致家族にとっては耐え難い人権問題である。その根本を放置したまま、私学法の規定に目を奪われて補助金を出すよう一転した松沢知事の見識が今後、厳しく問われることになると私は思う。

 ■朝鮮学校の根本問題

 この欄ではあまり、大阪府の取り組みを紹介する機会がなかったが、大阪府の朝鮮学校に対するスタンスが一番すっきりする。

 大阪府が優れているのは、第一に朝鮮総連との関係に一線を画すよう求めた点である。多くの自治体は教育内容を問わずに公金を支出する是非だけを論点に据えているが、根本的な問題はここにあるからだ。

 今の朝鮮学校は教育基本法に違反している疑いがあると私も思う。朝鮮総連との関係だって、不当な支配以外の何者でもないだろう。第一、学校法人として独立・自立しているわけではない。北朝鮮や総連の指令のいいなりである。人事権も学校運営権も完全に総連が掌握している。学校資産を担保として差し出せ、名義を貸せといわれれば、従っているし総連のために金策に走ることだってあろう。金正日総書記に祝電を送れといえば、学校を挙げて取り組むのだろう。「無償化獲得!」と命令ひとつで、生徒を駆り出しての街頭キャンペーンも各地で繰り出しもする。

 ■朝鮮学校の義務

 日本を愛する態度を養う教育も国際社会に寄与する人材を育てる教育も教育基本法にうたわれた決まりである。朝鮮学校はこの条文を守らなければならない。この条文に照らせば朝鮮学校は文句なくアウトだろう。

 そういう重大な疑義を抱える「学校」の認可そのものから抜本的に見直すべき、と私は思う。日本の税金を投入できるか否かという検討はそういう問題をクリアにしたうえでの話だろう。

 誤解のないように言っておくと、現時点で大阪府が朝鮮学校を教育基本法違反と認定したわけではない。大阪府の論理はあくまでも補助金を出す出さないは、自治体の裁量で知事が決め、予算を議会に諮って決める問題だということだ。

 義務教育や私学など日本の国民教育を担う教育機関ならいざ知らず、外国人学校、とりわけ独裁者の国の学校に対してはわが国の義務でも自治体の義務でも何でもなく、政策判断に過ぎない、という理屈である。出す以上は条件を課すことも可能だし、出さないという選択だってあり得る。出すのが当たり前だと思ってもらっては困るのである。

 ■税金回収先に税金投入の愚

 朝銀が破綻(はたん)してその影響で、全国の朝鮮学校13校の土地や建物が整理回収機構に仮差押されている。仮差押だからあくまで保全処分だが、保全処分といっても学校経営においては一大事のはずだ。整理回収機構というのは、国策の債権回収機関である。わが国が朝銀破綻のさいに1兆4000億円も投じた税金の回収作業の一環が朝鮮学校の仮差押なのである。朝鮮学校への融資自体が焦げ付いたものも無論ある。が、朝銀や朝鮮総連の利害、思惑そのほかに学校が翻弄(ほんろう)された例も過去の裁判などを見れば明らかだ。これこそ不当な支配にほかならない。

 仮差押された学校に、授業料であれ、補助金であれ、また税金をつぎ込む行為がいかにこっけいであるかがわかるだろう。税金の回収を税金で賄うことになりかねないからだ。わが国の納税者がこれほど愚弄(ぐろう)される話はないと思う。

 ■総連との関係清算は不可欠

 朝鮮学校は朝鮮総連と一線を引く。というか、関係を清算する。これは法外な注文などでは全くない。朝銀の後継金融機関の理事長をどうするか、という問題もそうだったではないか。今の前原誠司外相や上田清司埼玉県知事ら(当時は野党の国会議員の立場だったが)が朝鮮総連の影響力排除を求め、総連関係者が理事長になるのを食い止めたのである。北朝鮮管轄下の機関であるにもかかわらず、都道府県に認可されたという点で朝銀と朝鮮学校はよく似ている。どちらも朝鮮総連に掌握され、翻弄(ほんろう)される組織だという点でも共通した関係だ。朝鮮学校が日本の教育法令のなかに生きていくなら、朝鮮総連との関係清算は、最低限必要である。

 ■補助金は義務でも何でもない

 大阪府が他の自治体よりも優れている理由はまだある。朝鮮学校に政治的中立を求めている点である。前にも書いたことだが、教育基本法にある政治教育禁止条項は、各種学校には適用されないそうである。これは教育基本法の重大な欠陥だと私は思うのだが大阪府はそこを補完した格好になっている。

 高校に類する課程といいながら、各種学校だから、朝鮮学校の学生への政治教育はやりたい放題でいいはずがない。

 朝鮮労働党の描く政治的にゆがめられた史実は民族教育に値するのだろうか。韓国の国民はあれを同じ民族の歴史とは認めないはずで、あれは政治教育だろう。どうしてそういう教育をわが国の税金で面倒を見なくてはならないのか、と多くの国民が考えるはずだ。

 大阪府の優れている点をさらにいえば、条件をクリアにし、そのことが確認できない以上、補助金は出さないとしている点である。松沢知事も「2013年の教科書改訂時に記述の見直しを働きかけます」といわれたさいに「ではそのときに教科書の中身を見せてください。補助金を出すか出さないかはそれ以降の話ですね」とせめて言ってほしかったものである。

 ■私学法はある。されど…

 「朝鮮学校にも私学法が適用されます。私学には建学の精神に基づく教育がなされていて政府は口出しできないことになってますから」などとお茶を濁して済ます文部科学省や地方自治体の怠慢にはウンザリである。

 私学法というのは教育基本法があって成り立っているはずだろう。上位法の違反の疑義をただすのに、下位の法律でうやむやにしていいのだろうか。要は怠惰なのではないかという疑問がまず第一点。

 第二にこの問題はあくまで税金を出すかどうかという話になれば、反日教育をやっているところに税金を出すのは許されないでしょう、という話だったはずだ。教育内容を見ずに税金を出すのは問題である。だから、教育内容を見ましょう。見たら、反日教育だから、税金は出しません、という話であって、私学法の縛りを持ち出して教育内容を正すことができない、だから(でも)補助金は出します、というのは論理的につながらない。

 ■大阪府の卓見

 大阪府も私学法の縛りは十分、認識している。さきほどの政治教育にしても大阪府は政治教育をする学校に補助金は出しませんが、どうなんですか、朝鮮学校さんと問いかけているだけである。政治教育をやめなさい、辞めれば出しますよといっているのではない。

 補助金を出す以上は学習指導要領に準じた中身でなければならないので、どうなんですか、と聞いているに過ぎない。こう変えろ、と言っているのではないのである。私立学校には建学の精神による学校の裁量があるだろう。だが、補助金を出す側だって、出すには出すなりの基準や裁量、判断がある。認可された私立学校すべてに補助金を出すという話では全くない。

 ■朝鮮学校の建学の精神とは?

 朝鮮学校の建学の精神とは何か。朝鮮総連のHPでそのことを説明している。

 《朝鮮学校の教育目的は、すべての同胞子女たちをチュチェの世界観と民族的素養、「知・徳・体」をかねそなえた真の朝鮮人として、自分の祖国と民族の繁栄、同胞社会の発展のために寄与し日本や国際社会でも活躍できる、有能な人材を育成するところにある》

 チュチェ思想の世界観と堂々と書かれている。正しい世界観というのは北朝鮮にとっての正しい世界観であって、そのための国民教育が朝鮮学校で行われているという意味である。

 朝鮮学校に学んだ学生たちのなかから有能な人材が生まれれば、いずれ、あのとんでもない独裁国家を支え、日本に牙を剥きわが国を悩ます戦士が生まれるかもしれない。北朝鮮がそれを願って朝鮮学校を運営しているのは確かである。

 ■活動家が責任を負う学校

 朝鮮学校の「学校の管理運営」についても総連のHPにこんな記述があった。 《朝鮮学校は基本的に、在日同胞が自身の力で運営している。朝鮮学校の管理運営は、朝鮮総聯の協力のもとに、教育会が責任をもって進めている。教育会は、中央、都道府県、学校単位で、専任、学父兄を中心に組織されている。教育会は同胞学父兄の愛国心と熱意を呼び起こし、学校運営に必要な財政をまかない、学校の施設や設備、環境をととのえている》。 

 ちなみに最近までこのHPではこう書かれていたのである。

 《学校の管理運営 朝鮮学校は、祖国からの教育援助費と奨学金の恩恵を受けている。しかし、基本的には在日同胞が自力で莫大な教育資金を解決し、運営している。

 また、日本の行政当局からの教育補助金交付のための運動も行っている。

 朝鮮学校の運営は、朝鮮総聯の指導のもと教育会が責任を負っている。教育会は中央、県、学校単位で専従の活動家と同胞学父母を中心に組織されている。

 教育会は、同胞学父母の教育的熱意を呼びおこし、昼夜を問わない努力を傾けて、学校運営に要求される教育資金を確保し、学校施設と設備、機資材を更新している》

 ■なんだろう教育会って?

 「専従の活動家」となっていた表現が「専任」という柔和な表現になっているのが第一の注目点。第二にHP改訂後も民族教育の主体が朝鮮総連として描かれている点。「オイオイ、学校法人は独立してないのか」と改めて疑念が強まる次第だ。

 そして教育の責任は「教育会」なる組織が負っているとした点も注目に値する。何だろう。教育会って?。通常、学校教育の責任は校長や設置者である学校法人が負うべき話だ。専従の活動家が加わった組織が責任を負うと堂々とあった点も見逃せない。専従の活動家が加わって責任を負う学校って、一体何だろう。えたいが知れないことこのうえない。

 もうひとつ。朝鮮総連と学校の関係も今までは総連の「指導」のもととなっていたのに今や「協力」などとトーンが落ちている。これも教育基本法との絡みが言われ始めてから、変わった点である。しかし、総連の事業としてHPで堂々と民族教育という項目が盛り込まれているのだから、「支配」を「指導」「協力」と変えたところで本質は変わらない気がする。

 ■補助金支給が当然という錯誤

 北朝鮮の真の国民教育というのは、日本にとっては頭の痛い教育であり、わが国を悩ます教育である。

 しかし、そういう国民教育を断固として日本でやるというなら、北朝鮮が自前でやるべき話である。断じて日本の行政当局からの教育補助金交付などに手をつけてはならない話でなければならない。

 日本の教育法令を適用される各種学校などという法的地位だって補助金と地続きの話だ。「日本の学校」として認めた以上、徹底的に日本の教育機関としてのルールを守ってもらうのは当然の話である。

 一体、どこの世界に自国の国民教育、民族教育をよその国、よその民族の税金で賄う独立国家があるだろうか。そればかりではない。税金を出すことが当然だと考えている人士が多いのも驚きである。そういうよその国にすがり、その国の税金を頼りにして、それがなお当たり前だと考える。それが北朝鮮の国民教育、民族教育に値するのだろうか。そういう呪縛(じゅばく)から抜け出せない限り、北朝鮮は真っ当な独立国家になれはしないのではないだろうか。(安藤慶太・社会部編集委員)

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