再生会議、教育長に権限一元化　法改正案を来年提出へ

　政府の「教育再生実行会議」（座長・鎌田薫早稲田大総長）は１５日、首長が任免する教育長に権限を一元化して教育行政の責任者とすることを柱とした第２次提言を正式に決定し、安倍晋三首相に提出した。下村博文文部科学相は来週にも、中央教育審議会（中教審）に提言を諮問、年内に答申を得て、来年の通常国会に関連法改正案を提出する意向を示した。

　首相は「提言は地方教育行政の基本構造を大きく転換する。教育再生の基盤が築かれたと確信している」と強調した。

　提言は「地域の民意を代表する首長が教育行政に責任を果たせる体制にすることが必要」と明記。教育委員会には、各自治体の教育行政の基本方針を審議し、教育長の事務をチェックする役割を求めた。現行の合議制の教委は責任の所在が曖昧で、いじめ事件などで迅速な対応ができないとの指摘が出ていた。

　現在の教委は独立した行政委員会との位置づけだが、鎌田氏は記者会見で「制度的には従来の教委制度でもっていた中立性の維持を尊重しつつ、首長の大きな教育行政上の方針が反映できるようにする」と述べた。

　また、提言では自治体に法令違反があった場合は最終的に、国が是正を指示できるとし、教育委員については「文化・芸術、スポーツなど各界で顕著な功績のある者の活用も考慮する」と明記した。

　実行会議の議論は同日の会合から「大学教育・グローバル人材育成」に関するテーマに移った。委員からは、海外留学率の向上を図るため秋入学の推進を求める意見や、「世界で活躍するには日本人が自らの国や郷土の伝統に理解を深める態度を身につけることが大切だ」という主張が出された。

　■継続・中立性確保が課題

　自治体の首長が任命する教育長に教育行政の責任と権限を一元化するという教育委員会改革の方向性が固まった。いじめ問題などに対し、「責任の所在が不明確で迅速な意思決定ができない」という現行制度の問題を解消するための改革ビジョン。政治的中立性や継続性は確保できるのか。具体的な制度設計は中教審に委ねられた。

　首長が任免する教育長を教育行政の最高責任者にすることで最も懸念されるのが、教育の政治的中立性や継続性確保の問題だ。首長や教育長が暴走したり、首長が代わるたびに教育方針が変わったりするのではないか−という不安だ。

　現行制度では、教育の専門家ではない地域住民らで構成し、首長から独立した教委が政治的中立性を確保する存在だった。首長が変革を求めても、教育委員を４年の任期まで辞めさせることはできず、首長の交代によって教育行政が急激に変わらないよう制度設計されていたからだ。

　提言では、教育長の重要施策決定に際し、教委での審議を求めることで政治的中立性などを確保するとしており、ある文部科学省幹部は「教委の審議内容がどの程度、教育長の意思決定に影響力を持つかがポイント」と解説する。

　しかし、大阪府教育委員長の陰山英男立命館大教授は「現行制度でも、教育財政が一般財源化し、教育長や教育委員も首長の強い意向が働いて人選されており、教育への政治的関与は絶対的にある」と指摘。その上で「問題は、いじめや不登校など複雑化する現代の教育問題に、教育素人の教育委員で議論しても限界があるということ。専門的な知見を持ったプロ集団が機動的に動ける組織にすることが重要」と、教育委員の人選を重要視する。

　新たな教育委員の選任方法や教育委員長の権限のほか、教委による教育長の業務遂行のチェック方法などは今後の検討課題だ。政府内には選挙を経ていない教育長の権限を強化することに異論があり、関連の法改正には曲折も予想されるが、中教審では提言を尊重した議論が求められる。

　≪第三者チェックを≫

　高橋史朗・明星大学教授の話「教育行政における首長、教育委員長、教育長の責任が不明確だという最大の問題を解消するため、首長が任命する教育長に権限を一元化するという提言は評価したい。ただ、首長が代わるたびに教育方針が変わるという事態を防ぐための工夫が必要。単なる諮問機関とする教委では政治的中立性は確保できないのではないか。第三者機関がチェックするのが望ましい。加えて地方の暴走を防ぐため、最終的に国が学習内容や教科書採択などで地方を指導できる仕組みにしないと改革は不十分だ」