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<アスベスト>「母の服から吸引」女性の遺族提訴へ 静岡
2011 / 08 / 19 ( Fri )
 母親が約40年前に勤務していたパイプ製造会社「富士化工」(静岡県富士市)の託児所に幼少時に預けられ、今年42歳で胸膜中皮腫のため死亡した同市の女性の遺族が19日「母親の衣服に付いていたアスベストを吸い込んだため」などとして、同社に約9176万円の賠償を求めて静岡地裁に提訴する。代理人の大橋昭夫弁護士が18日明らかにした。

 近親の労働者が身に付けたアスベストを吸入した家族が罹患(りかん)する「家族暴露」を巡る訴訟は珍しい。労災補償が手厚い労働者本人に比べて、大きな補償の格差が指摘されている。

 訴状などによると、女性は3~6歳にかけて、市内の工場に隣接する託児所「ひまわり園」に預けられ、アスベストの粉じんが舞う工場内で作業していた母親に、アスベストが付着した作業服のまま抱きかかえられるなどし、吸引した。

 母親は72~88年に同社に勤務し退職後の10年3月、胸膜中皮腫と診断され同11月に亡くなった。アスベスト関連疾患として労災認定されている。一方、女性は母親を看病していた10年9月に同じ胸膜中皮腫と診断され、今年7月30日に亡くなった。

 同社は昨年11月、女性が託児所に2年以上入所していた事実を踏まえ、疾病補償金などとして2300万円を提示した。遺族は「人の命を軽く見ているとしか思えず、会社の誠意を感じない。会社に責任があることを明らかにしたい」として提訴に踏み切る。

 大橋弁護士は「親子で亡くなるという珍しく極めて悲惨な例。母親が働き始めた72年時点で、会社はアスベストの危険性を予見できたにもかかわらず、託児所の入所者にアスベストを吸わせないようにする安全配慮義務に違反していた」と話す。

 同社は毎日新聞の取材に「訴状を吟味して対応したい」とコメントした。【西嶋正信】

 【ことば】家族暴露

 労働者本人ではなく、家族が本人を介してアスベスト関連疾患になったケースを指す。労働者本人は高額な労災補償の対象だが、家族は対象外で石綿健康被害救済法が適用されても支給額は原則300万円にとどまる。数千万円単位の格差が問題となっており、家族が労災補償並みの救済を得るには、企業が独自に支払うか裁判で争うしかないのが実情だ。

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