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<福島第1原発>地震直後データ公表 現場、極度の混乱
2011 / 05 / 16 ( Mon )
 東京電力が16日公開した福島第1原発事故に関する膨大なデータによって、地震と津波で同原発が冷却機能を失う過程と、対応に追われる現場の混乱した状況が明らかになった。事故から2カ月以上たち、ようやく表に出てきたデータ。政府は近く発足させる事故調査特別委員会で、原因究明や初期対応の妥当性などの検証を始める。

 ◇非常用復水器、手動で停止 炉心溶融加速か

 福島第1原発で最初に大半の燃料が溶融した1号機で、全電源喪失の際に働く唯一の冷却装置である「非常用復水器」を、地震発生後に運転員が手動で停止させていた。

 東電は「16時間後に炉心の大部分が崩壊した」とする解析結果を15日に公表したが、これほど速く炉心溶融が進むのは「非常用復水器が停止した」という想定のためだ。非常用復水器が働けば原子炉が冷やされ、それだけ炉心溶融を遅らせることができる。運転員の操作が1号機の炉心溶融を早めた可能性があり、今後事故を検証する上で重要なポイントになるとみられる。

 東電によると、11日午後2時46分に地震が発生し、非常用復水器が自動で起動した。しかし原子炉が冷やされすぎて圧力が70気圧から45気圧に急激に低下したため、同午後3時ごろ、運転員が弁を閉めて非常用復水器を停止させたとみられるという。その後、運転員が何度か弁の開閉操作を行う中で、同午後3時半ごろに津波が来襲。弁を駆動させるための直流電源が水没し、弁の開閉が不能になったとみられる。

 また、次に弁を開いて非常用復水器を起動したのは同午後6時10分で、その15分後にも再び弁を閉じて約3時間停止させた。こうした操作が、長期間にわたる冷却機能の喪失を招いた可能性がある。非常用復水器の駆動を妨げるような操作について東電は「運転手順書に従ったことなどが考えられる。詳細は分からないが、今後検証したい」と説明している。【酒造唯】

 ◇3月11日夜には高線量計測

 「(外部電源確保のための)電源車が渋滞で進めない」「(弁を開いて炉内の圧力を下げる)ベント操作を試みるも高線量で断念」−−。東京電力が16日に公表した資料から、地震直後の福島第1原発での緊迫した状況が浮かび上がった。

 3月11日午後2時46分46秒。運転中だった1〜3号機では地震発生で緊急停止が始まった。警報を印字した記録紙からは、各機で制御棒の挿入や水位の変動を知らせる警報が延々と鳴り続けていたことがうかがえる。

 「各種操作実績取りまとめ」と題する資料によると、地震から約45分後の3月11日午後3時半ごろ、同原発に津波が到達し全電源が喪失。これを受け、東電本店は同5時ごろ、周辺の各支店に電源車を第1原発に派遣するよう要請した。しかし、「電源車は道路被害や渋滞で進めない」との報告があり、同6時20分ごろ、東北電力に電源車の派遣要請をした。

 同11時ごろ東北電力の電源車が到着したものの、現場は「暗所、津波の水たまり、障害物散乱、道路のマンホールのふたが欠落」(12日未明の記載)した状況で、ケーブルの敷設作業が難航した。ようやく電源車から電気を引き込めたのは12日午後3時ごろだったが、同36分に1号機で水素爆発が起き、電源車のケーブルが破壊された。これにより、「命綱」の電源車もわずか30分で使いものにならなくなった。

 一方、1号機のベント作業については同12日午前9時15分ごろに手動で開く作業を始めたものの、9時半ごろには「現場操作を試みたが、(放射線が)高線量で断念」との記述がある。結局、操作が始まったのは同10時17分だった。

 一方、東電は地震直後の「当直員引き継ぎ日誌」も公開。1号機については3月11日午後9時51分、周囲で高線量のため「入域禁止」になっており、燃料の炉心溶融が早い段階で始まっていたことがこの資料からも裏付けられた。

 ただし、この資料では首相官邸サイドとの交信記録は記載されていない。ベントや海水注入の判断について東電と政府との間でどのようなやりとりがあったかについては不明だ。【中西拓司、八田浩輔】

 ◇専門家による分析急務

 東電が公表したのは、1〜6号機の原子炉圧力容器内や格納容器内の水位や圧力データのほか、放射性物質を含む水蒸気を大気中に放出した「ベント」作業の実績、異常を知らせる警報の内容、冷却装置の操作実績、電源確保や復旧、運転日誌など事故の初期段階の膨大なデータだ。

 福島第1原発は、津波ですべての電源を失い、原子炉の冷却機能が失われた。通電中の記録は中央制御室内にあり、放射線量が高く、長時間滞在できないため、回収できないままだったが、経済産業省原子力安全・保安院が4月25日、東電に対し、記録の速やかな回収と報告を求めていた。

 公表された複数の記録を照らし合わせることで、津波の前に地震の揺れで機器類がどの程度損傷していたかや、東電や政府の対応に問題がなかったかが分かる。政府は、近く発足させる事故調査特別委員会で、このデータを基に事故原因の検証を進める方針だ。

 東京都市大の吉田正教授(原子炉工学)は「メーカーや独立行政法人など専門知識が豊富な機関が解析すれば、津波が来るまで東電がどう対応したのかなど地震直後の原発の全体像が見えてくるだろう」と話す。【足立旬子、奥山智己】

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