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<iPS細胞>遺伝子調節機能に異常 元細胞の特徴残る
2011 / 02 / 03 ( Thu )
 ヒトの人工多能性幹細胞(iPS細胞)が持っている遺伝子の働きを調節する機能に異常が見られることが、米ソーク研究所などのチームの解析で分かった。この異常は、さまざまな細胞への分化のしやすさや、分化させた細胞の機能に影響を与える可能性がある。iPS細胞を将来、再生医療に応用する上で課題となりそうだ。3日付の英科学誌ネイチャー(電子版)に掲載された。【須田桃子】

 一人の人間の細胞はどれも同じ遺伝情報に基づいている。それでも異なる形や機能を持った多種多様な細胞が存在するのは、それぞれの遺伝子についた「目印」が、遺伝子の働き方を微妙に調整しているためだ。iPS細胞は、いったん分化しきった細胞を、受精卵と同じような状態に「初期化」し、改めてさまざまな細胞に分化させる能力を持つとされる。

 チームは、材料となる体細胞の種類や作成法が異なる5種類のヒトiPS細胞を対象に「メチル化」と呼ばれる目印の場所や有無を調べた。受精卵から作られ、正常なメチル化を持つと考えられる胚性幹細胞(ES細胞)と比べた結果、おおむね同じだったが、あるべきメチル化がないものなどの異常が5種類すべてで見つかった。

 原因を調べたところ、初期化が不十分なために元の体細胞の遺伝的特徴が完全に消去されなかった異常と、体細胞をiPS細胞にする途中に新たに起きた異常との2種類があった。これらの多くは、iPS細胞を繰り返し培養して増やしたり、特定の細胞に分化させた後も多くが受け継がれていた。

 iPS細胞を開発した山中伸弥・京都大教授の話 iPS細胞の技術は日進月歩であり、この論文に報告されている点の多くもすぐに克服されるだろう。

 ◇解説 最新装置で精密解析

 人工多能性幹細胞(iPS細胞)の優れた点は、胚性幹細胞(ES細胞)のように受精卵を壊して作る必要がないにもかかわらず、ES細胞とほぼ同等の、あらゆる細胞に変化する能力(多能性)を持つことだ。一方で(1)大人の分化しきった細胞が、本当に受精卵のようにまっさらな状態に戻せるのか(2)人工的な操作を加えたことによる影響はないのか−−という2点については、よく分かっていなかった。今回の報告は、その問いに分子レベルで一つの答えを出した。

 今回明らかになった異常は、ES細胞のようにまっさらな状態ではないことを意味する。だが、今後の研究によって、異常が起きる原因を突き止めて改善に生かしたり、細胞の用途によっては機能に影響を与えるものではないことが確かめられるかもしれない。

 iPS細胞を医療に応用する際の課題として、目的以外の細胞に分化するものがあることや、分化した後、がんになるものがあることが指摘されている。この原因と、今回の異常との関係は明らかではないが、こうした解析から新たな知見が生まれる可能性もある。

 米国のチームが異常を見つけるのに用いた手法は、遺伝子の働き方を調節する「メチル化」と呼ばれる部分を、「次世代シーケンサー」と呼ばれる最新の遺伝子配列解読装置で分析する方法。九州大生体防御医学研究所の佐々木裕之教授は「ヒトのiPS細胞で初めてメチル化の状態を調べあげた、非常に大事な論文」と評価する。慶応大の須田年生教授は「日本には同様の解析を十分にできる環境がない。今後、iPS研究の一部として、この分野の研究も進めていくべきではないか」と指摘する。【須田桃子】

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